DNA治療

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DNA治療(遺伝子治療)とは。

「遺伝子治療」とは、この生命現象の根幹とも言える遺伝子の異常を修正する治療と言えます(※1)。
遺伝的に発生する遺伝病では、正常な生命体として必要な遺伝子の欠落や変性が見られます。後天的に発生する病気(がん、血管系疾患、神経系疾患など)の多くも、遺伝子の突然変異や遺伝情報の狂いによって発生します。
遺伝子治療では、これら疾患の根源となる不足遺伝子の補充や、遺伝情報の乱れに対して関連するRNA(miRNA、shRNA他)などの投与が行われます。

これらの遺伝子やmiRNA、shRNAを、治療のターゲットとなる細胞に送る際には、それらを運搬するものが必要です。
この運搬体は「ベクター」と呼ばれます。
ベクターは、治療に用いられる遺伝子などを持って、標的となる細胞の核の中に入り込んで、その遺伝子などを核の中でリリースしなければいけません。そのような力をもつものとして、病原性を消去したウイルスがしばしば用いられます(※2)。

遺伝子治療は、基本的には体内遺伝子治療と体外遺伝子治療の二つに大別されますが、RNA干渉を利用するものやゲノム編集を応用するものなどもあり、遺伝子治療は更に進化を続けていくと考えられます。

※1…遺伝子治療の詳しい定義(広義も含め)
遺伝子治療とは、『疾病の治療や予防を目的として遺伝子または遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること』と定義されています(出典:厚生労働省「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」)。
また、miRNA(マイクロRNA)やshRNA(ショートヘアピンRNA) などの遺伝子関連物質を投与して遺伝子の発現を干渉する治療法も、広義としての遺伝子治療に含まれます。

※2…ウイルスは、遺伝子やRNAを運ぶスペースを持つと同時に、細胞の核の中に侵入する力を持つため、遺伝子治療を実施する上で必要不可欠なベクターとして重宝されます。
ベクターとして利用される現在の代表的なウイルスは、レンチウイルスとAAV(アデノ随伴ウイルス)です。
他には、アデノウイルス、レトロウイルス、最近では国産のセンダイウイルスなどがあります。ウイルス以外のベクターとしてプラスミドなどが挙げられますが、これは標的細胞への導入効率や遺伝子発現期間の点でウイルスに劣ります。

○遺伝子治療は基本的には以下の二つに大別されます。
体内遺伝子治療(in vivo)遺伝子などを搭載したベクターを直接体内に投与する治療法です。ウイルスベクターやプラスミドベクターを用いて、薬理効果を持つ遺伝子などを腫瘍に直接注射、もしくは静脈や動脈を介して病変部に送る治療です。
体外遺伝子治療(ex vivo)遺伝子を直接体内に投与するのではなく、体外からいったん取り出した細胞に遺伝子を導入して培養増幅させ、それを体内に再び戻して治療するものです。
これには細胞を培養する必要があるため、再生医療の技術も必要です。

以下のようなプロセスになります。
造血幹細胞薬T細胞などの標的細胞を体外に取り出し培養・増幅させる。

その中にベクターを用いて遺伝子を導入する。

遺伝子導入細胞を培養、増幅させる。

点滴で体内に送達する。

○がんの遺伝子治療にも、体内遺伝子治療と体外遺伝子治療があります。
体内遺伝子治療<特徴>がんの原因と考えられる遺伝子の発現、がん抑制遺伝子の欠損や突然変異、がんに特異的な異常タンパクを規定する遺伝子情報の破綻、などをターゲットにして、対応する遺伝子やRNAなどを直接体内に投与する治療法です。

<現況>
・投与する遺伝子の種類悪性胸膜中皮腫や前立腺がんに対するがん抑制因子REIC遺伝子、固形がんに対するTCR、glTCR遺伝子の投与など多くの臨床研究が国内でも実施されており、非小細胞がんに対するP53遺伝子、前立腺がんに対するヘルぺスウイルスチミジンキナーゼなど臨床研究が終了しているものもあります。
臨床現場では未承認扱いですが、がん抑制遺伝子のP16、PTENなどを投与するものや、CDC6 RNAi 、RA538、GATA3、Ezh2shRNAなどさまざまな導入遺伝子やRNAが治療に応用されています。
・遺伝子を運ぶベクターの種類体内遺伝子治療の場合は、ターゲットとなるがん細胞の核の中に導入遺伝子やRNAをしっかりと送り届けて効果を発現させるために、運び屋であるベクターが非常に重要になります。
現在信頼できるベクターとして、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどが期待されます。
ベクターの開発は今後さらに進んでいくと考えられます。

<適応>
胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、膵臓がん、腎臓がん、前立腺がん、子宮頸がんなど、全ての固形がんが治療対象になります。

<安全性>
臨床現場で実施されている遺伝子治療においては、一時的な発熱、倦怠感、低血圧などは見られるようですが、重篤な副作用や有害事象が発生していません。

体外遺伝子治療
<特徴>キメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T)療法 が代表的です。これは患者さんから採取した免疫細胞(T細胞)にキメラ抗原受容体(CAR)を発現させる遺伝子改変技術を施し、それを大量に培養してから体内に戻す療法です。
T細胞を利用する点では免疫療法、細胞を培養する点では再生医療、これら二つの医療技術も用いられています。

<現況>
米国食品医薬品局(FDA)では2017年9月にCD19標的CAR-T療法である「キムリア」を、同年9月に同じく「Yescarta」を承認しました。固形がんに対しても臨床研究や治験が進んでいます。

<適応>
適応症は急性リンパ芽球性白血病(ALL)やB細胞リンパ腫などの血液がんです。胃がん、大腸がん、肺がんなどの固形がんには適応がありません。今後は固形がんに対しても適応が拡大される見通しです。

<安全性>
一般的な化学療法でみられる正常細胞を障害するような有害事象(骨髄抑制、粘膜・皮膚障害など)は発生しないと考えられますが、サイトカイン放出症候群と呼ばれるインフルエンザ様の症状、毛細血管漏出、神経毒性などのリスクがあり、注意を要します。

○がん遺伝子治療の副作用やリスク
遺伝子治療の副作用やリスクについて、これまでの経緯を含めて説明します。
・期待に反して事故が続いた黎明期遺伝子治療の黎明期には、大量に投与されたアデノウイルスベクターに対する過剰な免疫反応が発生し一人の治験患者が死亡しました(1999年 米国 Gelsinger事件)。
また、2002年にはレトロウイルスベクターの挿入変異に伴う白血病の発症が確認されました。
いずれも、遺伝子治療の成功例が続いていた中での事故であり、関係者には大きなショックでした。

・事故の原因究明前述した1999年のGelsinger事件は、遺伝子治療の問題ではなく、プロトコールや臨床研究の実施体制に大きな欠陥がありそれが事故の原因と考えられましたが、2002年の白血病の発症は、遺伝子治療の本質的な問題と捉えられました。
次世代シークエンサー(DNA分子の配列を短時間で読み取る特殊な装置)により詳細な解析を行ったところ、遺伝子治療でベクターに使用したレトロウイルスが遺伝子を挿入する部位に問題があることが判明しました。
細胞の増殖や分化に関連する部位に組み込まれることで、がん化を引き起こすことがわかったのです。

・安全なウイルスベクターの開発レトロウイルスベクターのリスクが突き止められ、がん化の可能性を減少させた改良型のレトロウイルスベクターの開発が進みました。その後、より安全なレンチウイルスベクターやAAVベクターなど臨床で問題なく使用できると考えられるベクターが登場し、遺伝子治療の研究、開発は大きく飛躍しました。

・現在の体内遺伝子治療は極めて安全現在、体内遺伝子治療は未承認治療ではありますが、臨床現場で提供されている体内へ直接投与するタイプのがん遺伝子治療には、明らかな有害事象の報告がありません。