幹細胞培養上清液とは
身体の各部位から採取した幹細胞を培養し、培養した細胞を満たす液(培養液)から幹細胞を取り出して滅菌等の各種処理を行った上澄の液のことを指します。
幹細胞治療においては自己細胞しか利用できないのに対して、この培養上清液による治療の場合、治療製剤に培養した細胞が含まれていないため他家の細胞培養過程において発生する上清液を利用することができます。
幹細胞は細胞自身が活性化・成長・増殖するために「サイトカイン」と呼ばれる様々な種類の生理活性タンパク質を放出しています。サイトカインは、体内の損傷を受けた組織や細胞の機能回復に重要な役割を果たし、老化などにより衰えた細胞の回復を後押しするため、美容分野や整形外科分野に対する様々な効果が期待されます。
この幹細胞を体外で培養して、培養液から細胞や不純物を取り除いた上澄みの部分が「上清液(じょうせいえき)」です。培養液中にサイトカインが蓄積され、ヒトの細胞が放出した体内にある自然な状態に近いサイトカインが得られます。
幹細胞培養上清液に入っている
成長因子とは
成長因子とは、動物体内において特定の細胞の増殖や分化を促進する内因性のタンパク質の総称です。
増殖因子、細胞増殖因子などとも言います。様々な細胞学的・生理学的過程の調節に働いており、標的細胞の表面の受容体タンパク質に特異的に結合することにより、細胞間のシグナル伝達物質として働ことで知られています。
成長因子の主な役割は、成長ホルモンの分泌に関わったり、細胞の増殖を促し創傷治癒の一端を担います。「自然治癒力」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。けがをした時、時間と共にキズが徐々に治っていくと思いますが、その再生力のことを自然治癒力と呼びます。
キズが治るためには、ターンオーバーによって古い皮膚が押し上げられ、新しい皮膚に生まれ変わる必要があります。成長因子には、このターンオーバーを正常に働かせる作用があるのです。美容医療の現場ではEGF,FGF,IGF,KGF,TGFといった種類の成長因子を増殖あるいは外部から注入することで治療目的を達成することがあります。
幹細胞の多彩な分化能により、回復不能と診断された疾患の改善が多く報告されております。
幹細胞培養液入っているサイトカインとは
幹細胞培養上清液には500種類以上のサイトカインが含有されています。サイトカインとは、主に免疫細胞から分泌されるタンパク質で、細胞間の情報伝達や免疫応答を担う生理活性物質の総称です。身体に様々な効果・影響を与えますが、特に医療の現場においてはIL-1αというサイトカインの活躍が非常に大きいです。
IL-1αは、炎症、微生物侵入、組織損傷、免疫応答における強力なメディエーターとして機能するサイトカインです。最近の研究では、IL-1αが創傷治癒、関節リウマチ、アルツハイマー病、腫瘍増殖においても役割を果たすことが示唆されています。顔面美容治療においても全身治療においても、各部位の炎症治癒効果が高く評価されています。
サイトカインの主な働きとは
- 免疫細胞を目的部位に集積する
- T細胞やB細胞などの獲得免疫系の細胞の分化を誘導する
- 自然免疫系や獲得免疫系を活性化し、病原体やがんなどの異物を排除する
- 細胞の増殖、分化、細胞死、機能発現などの細胞応答を引き起こす
エクソソームと幹細胞培養上清液の違い
エクソソームと幹細胞培養上清液は、どちらも幹細胞を培養した溶液の上澄みですが、次のような違いがあります。
□ エクソソーム
細胞が放出する小胞子
細胞から分泌される小さな小胞体で、直径が40~150ナノメートル程度のものです。細胞間コミュニケーションを行う機能があります。タンパク質、RNA、脂質などを含み、細胞外に放出された後、代謝の調節、細胞間相互作用など細胞や組織に影響を与えます。
エクソソームは細胞培養上清液から分離することができます。
□ 幹細胞培養上清液
幹細胞を培養する際に放出される成分の混合物
幹細胞を培養する際に放出される培養上清液で、幹細胞から分泌されるサイトカイン(成長因子)、ホルモン、細胞外マトリックス、RNAなど様々な成分が含まれています。この中にエクソソームが含まれる場合もあります。
幹細胞培養上清液は、幹細胞を増殖させ、分化させるための環境を提供するために用いられます。
幹細胞培養上清液の種類
□ 羊膜由来幹細胞 -羊膜
羊膜とは、出産時の胎盤から抽出されるコラーゲン性の膜です。この羊膜由来の幹細胞を培養した際に発生する成分が羊膜由来幹細胞培養液です。羊膜由来幹細胞は、新生児の細胞であることから、加齢や環境によるDNA損傷も少なく、iPS細胞のような人工的な遺伝子改変による発がんリスクもないです。幹細胞培養液は、各種たんぱく質やサイトカイン(成長因子)を多様かつ豊富に含みますが、特に羊膜由来の培養液はサイトカインの含有量が高く、肝細胞、脳、心臓、筋肉細胞を再生させる作用が強いといわれています。
また、免疫抑制作用・炎症鎮静作用なども高く期待できるので、創傷治癒を促進し、しわやたるみの改善、ハリや弾力のアップといったエイジングケア効果が期待できます。
さらに、疲労回復、薄毛症、脱毛症、更年期障害や心筋梗塞、糖尿病といったリスクを軽減する働きも見込めます。
□ 臍帯由来幹細胞 -臍帯
臍帯とは、へその緒のことです。この臍帯由来の幹細胞を培養した際に発生する成分が臍帯由来幹細胞培養液です。
この臍帯にある間葉系幹細胞は、新生児の細胞であることから、加齢や環境によるDNA損傷も少なく、iPS細胞のような人工的な遺伝子改変による発がんリスクもないです。
骨髄由来、脂肪由来などの成人の組織から採取する細胞と比較すると、ES細胞(受精卵から採取される幹細胞)に近い性質(遺伝子発現)を持っていることが分かっています。
サイトカインの含有量が高く、免疫抑制作用・炎症鎮静作用なども高く期待できるので、創傷治癒を促進し、しわやたるみの改善、ハリや弾力のアップといったエイジングケア効果が期待できます。
臍帯由来の間葉系幹細胞は、神経を保護する作用が、骨髄由来、脂肪由来よりも高いという報告もあります。神経障害などの改善にも期待されております。
□ 脂肪由来幹細胞 -脂肪
腹部など身体から約10~20g程度の少量の脂肪組織を採取し、その脂肪細胞から培養加工した上清液が、脂肪由来幹細胞培養上清液です。
細胞採取部位が体表に近いこともあり、採取する際の身体の負担やリスクが大幅に抑えられます。
また、脂肪由来の幹細胞の含有量は骨髄由来に比べて500倍と非常多く、増殖力が高いことに加え、臓器修復に有効な成長因子の種類が多いことから、現在の再生医療の主流として多くのクリニックで様々な治療法に活用されています。
脂肪由来幹細胞培養上清液は、骨や軟骨、液性因子の分泌に優れているため、膝などの変形性関節症や美容系アンチエイジングといった再生医療への応用に期待されています。
□ 歯髄由来幹細胞 -歯髄
歯髄細胞とは、歯の中心部分にある歯の神経のことです。
子供の乳歯の歯髄から採取した歯髄幹細胞を加工上清したものが歯髄幹細胞培養上清液です。
歯髄幹細胞は、歯の硬い組織に守られているため遺伝子に傷が付きにくく、ガンになりにくい細胞で非常に元気、かつ、良質な幹細胞を多く含んでいます。
幹細胞は加齢とともに急激に減少する傾向にあるため、“乳歯や20歳以下の親知らず”などなるべく若い細胞から製造するのが最適です。
また、歯から幹細胞を採取し培養するため、骨髄や脂肪などのよく知られている幹細胞の採取方法と比べ、ドナーの負担やリスクがなく、手軽で安全に採取できるのが特長です。
培養上清液に期待される効果
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抗炎症作用
障害部位(損傷部位・炎症部位)の治癒促進、疼痛軽減効果など
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血管再生・血管新生作用
動脈硬化などによる血行の途絶に対して側副血行路血管新生など
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活性酸素除去作用
疲労回復、生活習慣病予防など
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免疫調整作用
アレルギー疾患など
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神経細胞修復・再生作用
末梢神経の修復など
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美容作用
組織修復作用により二次的なシワやたるみの改善など